東京地方裁判所 平成7年(ワ)4579号 判決 1996年5月29日
原告
小澤茂男
被告
望月勇
主文
一 被告は、原告に対し、金七一三万八八八三円及び内金六二三万八八八三円に対する平成六年一〇月二一日から、内金九〇万円に対する平成七年三月二六日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金九九四万七二八三円及び内金九〇四万七二八三円に対する平成六年一〇月二一日から、内金九〇万円に対する平成七年三月二六日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二当事者の主張
一 原告の主張
1 本件事故の発生
(一) 事故日時 平成六年七月三〇日午後零時三〇分ころ
(二) 事故現場 東京都港区赤阪三丁目四番四号先通称外堀通り(以下「本件道路」という。)
(三) 原告車 普通乗用自動車(品川三三な八八六五)
運転者 訴外佐藤卓夫
(四) 被告車 普通乗用自動車(多摩三三む七五)
運転者 被告
所有者 被告
(五) 事故態様 原告車を本件道路に駐車中、後方から進行してきた被告車が原告車の右後部に追突した。
2 原告車の所有
原告車は、元は、訴外株式会社森音楽事務所(以下「訴外森音楽事務所」という。)が所有であつたが、訴外森音楽事務所が、訴外コーンズモーターズ株式会社(以下「訴外コーンズモーターズ」という。)に売却し、さらに訴外株式会社アークランド(以下「訴外アークランド」という。)が訴外コーンズモーターズから、買い受けていたところ、平成六年五月一四日ころ、原告が、訴外アークランドから買受け、その所有権を取得した。
3 責任原因
被告は、前方を注視して進行すべき注意義務があるにもかかわらず、これを怠つて進行した過失によつて本件事故を起こしたのであるから、民法七〇九条により損害を賠償する責任を負う。
4 損害額
(一) 修理代 四六三万八八八三円
(二) 代車代 四四〇万八四〇〇円
原告は、平成六年八月一日から同年一〇月六日までの六七日間及び修理相当期間の四〇日分合計一〇七日間、原告車の代車を一日当たり四万円で借受けたので、その費用合計四四〇万八四〇〇円の損害を負つた。
(三) 弁護士費用 九〇万円
二 被告らの認否及び主張
1 原告主張の日時、場所で、被告車が原告車に追突する事故を起こしたことは認めるが、原告車が原告の所有である事実は否認する。原告車は、訴外森音楽事務所の所有である。
2 本件事故は、被告が、片側三車線の本件道路の第二車線を走行中、第三車線から進路変更した訴外車との接触を避けようとして、本件道路左側に駐車していた原告車に衝突したものである。本件事故現場付近は駐車禁止で、かつ、原告車は、他の駐車車両と比して、道路の中央部に車体の三分の二程度をはみだす状態で駐車していたものである。本件事故は、原告車の危険な違法駐車にも原因があり、大幅な過失相殺がされるべきである。
3 損害額について
(一) 修理代金について
原告車の修理は過剰修理であり、修理代金の請求額は不当に高額である。
(二) 代車料について
原告が代車として一日当たり四万円で使用したメルセデスベンツのリムジン車は、本件における代車としては不相当であり、代車は国産の普通乗用車で十分であり、一日当たり一万円程度で十分である。また、代車の必要な期間も一週間で十分であり、代車料は七万円が相当である。
第三争点に対する判断
一 原告車の所有者について
甲五、八、一二、一三、乙一及び原告本人尋問の結果によれば、原告車は歌手の森進一の事務所である訴外森音楽事務所が所有していたところ、訴外森音楽事務所が、訴外コーンズモーターズが同事務所から購入し、さらに訴外アークランドが訴外コーンズモーターズから買い受けていたところ、平成六年五月一四日ころ、原告が、訴外アークランドから原告車を購入したこと、原告は、原告車は、森進一が使用していたため、将来、売却する際に、原告から所有名義が変更されるより、訴外森音楽事務所から直接名義が変更される形態をとつた方が、プレミアがついて、原告車を高額で処分できると考え、自動車登録を原告に移転していなかつたところ、本件事故に遭つたこと、本件事故後の平成六年一〇月二一日付で、訴外森音楽事務所から訴外アークランドに、同年一一月三〇日付で訴外アークランドから原告へと、原告車の所有者登録が移転されている事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
これによれば、原告車は、本件事故当時、登録名義上は未だ訴外森音楽事務所の所有となつていたものの、所有者は原告であると認められるから、被告らは、原告に対して損害賠償責任を負うことは明らかである。
よつて、被告の主張は理由がない。
二 過失相殺
前記争いのない事実、乙五、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件道路は、通称外堀通り(甲一には青山通りと記載されているが、乙五の図面から見ると外堀通りと認められる。)の幹線道路であり、片側三車線で本件事故現場付近は直線で見通しがよい道路であること、原告車は、第一車線上に駐車していたところ、第二車線を後方から進行してきた被告車が、急に進路を左に変更して第一車線に進入してきたため、被告車の左前部が原告車の右後部に追突したことが認められる。被告は、原告車は、その車体の三分の二程度を中央側にはみ出して駐車していたと主張するが(右主張によつても、原告車がどのように駐車していたか、その主張は明確ではないが)、乙五を見ても、原告車は、第一車線上に駐車していると認められ、被告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。また、乙五の規制欄には、駐車禁止規制が表示されておらず、他に証拠もないので、本件事故現場が駐車禁止区間であつたかは証拠上明確ではない。
以上によれば、仮に、本件事故現場が駐車禁止区間であり、右規制に違反して原告車が駐車していたものであつたとしても、原告車は、第一車線内に駐車していたのであるから、被告が、前方を注視し、急激な車線変更をせず、第二車線上を走行してさえいれば、本件事故は避け得たものであり、本件事故の発生に関して、原告に責められるべき過失は認められない。仮に、被告が主張するような他車の割り込みが原因で生じたものであつたとしても、原告との関係では、被告の一方的な過失によつて本件事故が生じたことは明らかであるので、本件では過失相殺を認めるのは相当ではない。
第四損害額の算定
一 修理代 四六三万八八八三円
1 甲四の一及び二、一五、一七並びに原告本人尋問の結果により認める。
2 被告は、乙三及び四を元に、原告車の修理が過剰修理である旨主張する。しかしながら、乙三及び四は、乙二の写真だけを参考にして検討しているものに過ぎない。いかなる部分に、どの程度の修理が必要かは、写真のみによつて外部から状況だけで判断できるものではなく、内部の破損状況も考慮して判断できるものであることは明らかである。写真で、外形からだけで判断している乙三及び四の信用性、相当性には、自ずから限界があることは、その性格上明らかである。他方、甲四の一及び二は、実際に車両を分解、点検し、内部の状況も含めて、破損状況を調べて修理の必要性、相当性を判断し、修理価額を算定したものであり、原告車の修理の相当な範囲を判断するに際し、乙三及び四に比して、信用性が高いことは明らかである。そして、甲四の一及び二から認められる原告車の修理内容には、格別の不合理な点は、認められない。
被告は、被告のリアバンパーは、右側だけが破損しているので、取り替えが不要であり、原告車の修理は過剰であると主張する。しかしながら、乙二を見ても、原告車のリアバンパーは、後部右側部分も破損していることがうかがわれ、外部からの判断だけでは取り替えが不要と断定できるものではなく、実際に車両を分解、点検し、リアバンパーが構造上一体となつていること等も考慮して取り替えが必要と判断した甲四の一及び二の信用性を覆すに足りるものではない。また、被告は、交換には新品部品は使用すべきではなく、中古部品を使用すべきであるから、新品部品を使用している原告車の修理は過剰であると主張する。しかしながら、中古部品を使うか否かは、破損状況、部品の調達の可否、難易度、価額(調達の難易によつては、新品部品の方が廉価である場合も十分に考えられる)、調達に要する期間等を考慮して総合的に判断すべきものであり、写真だけを見て、単純に判断できる性格のものではない。甲四の一及び二、一五、一七から認められる原告車の修理の内容に、修理として不相当な内容は認められない。
以上の次第で、被告の主張は採用できない。
二 代車料 一六〇万円
1 代車期間について
甲四の一及び二、原告本人尋問の結果によれば、原告車は、本件事故当日の七月三〇日に訴外有限会社モータース伊藤に納車し、修理の見積が八月三〇日に終了していることが認められるので、そのころから一〇日間の程度の間には、修理をするか、買い替えるかの判断ができたと認められる。甲四の三によれば、修理に必要の期間は四〇日間であると認められるので、合計八〇日間が相当な代車期間であると認められる。
2 一日当たりの代車料金について
原告車は、ロールスロイスであり、最高級車と認められる。そして、原告本人尋問の結果によれば、原告は、高島易団を主催しており、原告車を易団の社用車として接待等に使用していたことが認められ、かかる原告車の使用の趣旨に鑑みると、原告車の代車は、原告が実際に代車に使用したメルセデスベンツのリムジン車である必要性は認められないが、国内最高級クラスの車両と認めるのが相当である。その代車料金は、原告が実際に代車に使用したメルセデスベンツのリムジン車一日当たり四万円であることに鑑みると、経験則上、一日当たり二万円を下らないと認められる。
なお、被告は、その主張からも、代車の必要性は争つていないと認められる上、この点について、何ら反証を行わないので、代車の必要性は認められる。
3 以上の次第で、代車料は、一日当たり二万円の八〇日分の一六〇万円と認められる。
三 弁護士費用 九〇万円
本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、原告請求のとおり金九〇万円が相当であると認められる。
四 遅延損害金について
原告は、修理費と代車費用については、催告の期限の翌日である平成六年一〇月二一日から、弁護士費用については、本訴状送達の日の翌日である平成七年三月二六日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を求めていると認められるので、本件では、右損害中、修理費と代車料の合計金六二三万八八八三円に対しては平成六年一〇月二一日から、金九〇万円に対しては平成七年三月二六日から、それぞれ遅延損害金を認める。
第五結論
以上のとおり、原告の請求は、被告に対して、金七一三万八八八三円及び内金六二三万八八八三円に対する平成六年一〇月二一日から、内金九〇万円に対する平成七年三月三六日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由がある。
(裁判官 堺充廣)